【竜操教室 塾長日記】因果な商売ですね。

昨日の読売新聞の連載小説「惣十郎浮世始末」の一節です。


「巷で名医と称されるのは、どういった医者かご存じですか」


「そりゃあ、病を治す医者だろう」


「残念ながら異なります。無論、私はそうあることを目指しておりますが・・・・・」


預かった銀管を、文机脇の小抽斗に慎重にしまってから続ける。


「名医と称されるのは、初手の見立てより悪しき結果を生まぬ医者なのです。それには初診の折に、いかな病に対しても『これは助からぬ』と告げてしまうのがよいそうです。そのまま亡くなれば見立ての通り。うまくして治れば、医者の手柄となる


 一方で、必ず治してみせると懸命に取り組んだ挙げ句、それが報われぬと、あたかも医者が殺したように責め立てられる」


惣十郎は黙して聞いたのち首をすくめ、


「因果な商売だな、医者ってのも」


そう漏らして、力なく笑った。


まさに因果な商売なんですよ、塾というのも。

0コメント

  • 1000 / 1000